2026/7/3
ブッダボットとは?京都大学発の仏教対話AIを解説
ブッダボットとは、京都大学とテラバースが開発した仏教対話AIです。最古の経典スッタニパータを学習した仕組み、ChatGPT搭載のブッダボットプラスへの進化、ブータンでの導入まで、開発の経緯を一次情報に基づき解説します。
ブッダボットとは、当社テラバースが京都大学と共同開発した、仏教経典を学習してさまざまな悩みに宗教的観点から回答する対話型AIです。2021年3月に発表して以来、世界約20か国のメディアで報道され、2025年にはヒマラヤの仏教王国ブータンの仏教界に正式導入されました。
「ブッダと対話できたら」という発想から生まれたこのプロジェクトは、2500年前の仏教思想と最先端のAI技術を融合させた、世界でも例のない試みです。
この記事では、私たちが開発したブッダボットの仕組みと開発の経緯を紹介します。生成AIを搭載した「ブッダボットプラス」への進化、事実に基づかない回答(ハルシネーション)への対策、そしてブータンでの実用化まで、その全体像をお伝えします。
ブッダボットとは何か
ブッダボットは、当社テラバースの古屋俊和CEOらと、京都大学 人と社会の未来研究院の熊谷誠慈教授らの研究開発グループが共同開発した仏教対話AIです。ユーザーがスマートフォンなどに悩みを入力すると、仏教経典に基づいた回答が返ってきます。
共同開発者である熊谷誠慈教授は、インド・チベット・ブータンの仏教を専門とする仏教学者であり、寺の住職も務める人物です。一方、当社CEOの古屋俊和は、データ解析や自然言語処理を専門とし、AIスタートアップを複数創業してきた技術者です。仏教学とAI技術という異分野の専門家が組んだことが、このプロジェクトを実現させました。
開発のきっかけ
プロジェクトの発端は2014年ごろ、熊谷教授が、天台宗の青蓮院門跡の東伏見光晋執事長から「衰退気味の日本の仏教を何とかできないか」と相談されたことにさかのぼります。2040年に3割の寺が消滅するとの推計もある中、仏教と一般の人々をつなぐ手段が模索されていました。
「仏教の教えを聞きにお寺に行っても、僧侶と直接話す機会は少なく、日常の悩みに仏教的な回答を得るのは難しい」という課題意識から、AIチャットボットで仏教と人々をつなぐというアイデアが生まれました。
当初、熊谷教授はAIでブッダの知性そのものを再現しようと考えていましたが、技術者である古屋が現在の技術では困難だと判断し、「ブッダの説法を再現したチャットボット」という現実的な形に落とし込みました。このプロジェクトが、後のテラバース創業(2022年)へとつながっていきます。
ブッダボットの仕組み
初代ブッダボット(2021年3月発表)は、Googleが開発した自然言語処理アルゴリズム「Sentence BERT」を応用して構築されました。
学習データは最古の仏教経典
ブッダボットが学習したのは、現存する最古の仏教経典とされる『スッタニパータ』です。この経典をQ&A形式で機械学習させることで、ユーザーの質問に対して、関連する経典の文言を提示する仕組みが実現しました。
Sentence BERTは、文章同士の意味的な類似度を計算することを得意とするモデルです。ブッダボットは、ユーザーが入力した悩みの文章と、経典に含まれる文言との類似度を計算し、最も関連性の高い経典の一節を回答として返します。
初代ブッダボットの特徴と限界
初代ブッダボットは「非生成系」のAIでした。つまり、AIが新しい文章を生成するのではなく、経典に書かれている文言をそのままの形で提示するものでした。
この方式には、回答の出典が明確で信頼性が高いという利点がありました。回答はすべて実在する経典の文言であり、AIが事実と異なる内容を作り出す心配がありません。
一方で、経典の古典的な文言をそのまま提示するため、ユーザーが聞きたい内容にわかりやすく答えることが難しいという限界がありました。この課題が、次の「ブッダボットプラス」開発の動機になります。
ブッダボットプラスへの進化
2023年7月、研究グループは生成AI「ChatGPT(当時のGPT-4)」を応用した新型チャットボット「ブッダボットプラス」を発表しました。
経典の文言に「解釈」を加える
ブッダボットプラスの最大の進化は、経典の文言を提示するだけでなく、その文言に対する解釈や追加説明を生成AIが生成して提供できるようになった点です。
具体的には、ユーザーの質問に対して、まず仏教経典の文言を提示し、その上でユーザーの質問内容に即した解釈・追加説明をChatGPTが生成して併せて表示します。古典的な経典の文言だけでは理解しにくかった回答が、現代的でわかりやすい言葉で補足されるようになりました。
ハルシネーションへの対策
生成AIの利用には、事実に基づかない情報をもっともらしく生成する「ハルシネーション(幻覚)」のリスクが伴います。仏教の教えを扱うブッダボットにとって、これは特に慎重に対処すべき課題でした。
私たちはこの問題に対して、経典の文言をそのまま示す部分と、ChatGPTが生成した解釈部分を分けて表示するという対策を施しました。これにより、どこまでが実在する経典の記述で、どこからがAIによる解釈なのかをユーザーが区別できるようになっています。
この「出典と解釈の分離」は、生成AIを信頼性が求められる領域で活用する際の重要な設計思想です。私たちが現在提供している企業向けのRAG(検索拡張生成)システムにも、この考え方が活かされています。ただし、私たち自身が認識しているように、最終的には利用者側の知識や判断力も求められる点は変わりません。
ブッダボットの展開と広がり
ブッダボットのプロジェクトは、単一のチャットボットにとどまらず、さまざまな形に展開しています。
AR・メタバースへの展開
2022年9月、私たちはAR(拡張現実)技術「テラ・プラットフォームAR Ver1.0」を開発しました。これにより、現実空間にブッダのアバターを召喚し、テキスト対話だけでなく、視覚や聴覚を用いたコミュニケーションが可能になりました。当社の社名「テラバース」は、「一兆(テラ)の宇宙(バース)」を意味し、伝統知とテクノロジーを融合したサイバーフィジカルシステム(仮想世界と現実世界を融合させたシステム)の構築を目指しています。
仏教聖人ボットの多様化
2023年9月には、浄土真宗の開祖である親鸞をモデルにした「親鸞ボット」と、大乗仏教の哲学「唯識」を大成した世親をモデルにした「世親ボット」を開発しました。これにより、教えを生み出した「ブッダ」、それを哲学的に分析した「菩薩」、教えを各地に伝えた「高僧」という、仏教の主要な伝道者の対話AIが揃いました。
ヒューマノイドロボット「ブッダロイド」
2026年2月には、ブッダボットを搭載した仏教AIヒューマノイドロボット「ブッダロイド」を発表しました。Unitree Robotics社製のヒューマノイドロボットにブッダボットを組み込むことで、チャットやARでは得られにくかった「身体性」を獲得し、対面での身体的な存在感を伴う相互作用が可能になりました。
ブータン王国での実用化
ブッダボットは研究段階にとどまらず、実際の仏教界で活用され始めています。
2022年に開かれた第4回国際密教学会でブッダボットが発表されると、ブータン王国中央僧院が強い関心を示しました。そして2025年、ブータン王国中央僧院からの公的な要請を受け、ブッダボットプラス(英語版)が同国の仏教界に導入されました。
報道によれば、ブータンでは僧侶ら約450人がブッダボットを試用しています。中央僧院の関係者は「理にかなっていて理想的」と評価しているとされ、利用者数を拡大する意向も示されています。スリランカやタイの仏教界も導入に関心を寄せていると報じられており、ブッダボットは国際的な広がりを見せています。
私たちの倫理的な姿勢
宗教とAIを融合させるという試みには、慎重な配慮が求められます。ブッダボットの開発当初には、「AIを宗教に使うことに違和感を覚える」という声も日本国内にありました。しかし、生成AIの普及とともに、前向きな意見が増えてきています。
私たちは、仏教以外の宗教への転用は考えていないという姿勢を明確にしています。宗教によっては紛争を引き起こす可能性もあるため、それぞれの宗教の教学者の見解を尊重することが必要であり、他の宗教への安易な応用は避けるべきだと考えているからです。伝統知を扱う以上、その背景にある文化や信仰への敬意を欠いてはならないというのが、私たちの一貫した信念です。
まとめ
ブッダボットは、当社テラバースが京都大学と共同開発した仏教対話AIであり、最古の仏教経典『スッタニパータ』を学習して人々の悩みに答えます。2021年の初代(非生成系AI)から、ChatGPTを搭載したブッダボットプラス(生成AI)へと進化させ、ハルシネーション対策として経典の文言と解釈を分離表示する工夫を施しました。
このプロジェクトは、2500年前の仏教思想という「言語化されにくい知の体系をAIで継承する」試みを、経典という形ですでに実践してきたものとも言えます。経典の文言と生成AIによる解釈を組み合わせるという設計思想は、企業のナレッジや個人の思想・人格をAIで扱う技術にも応用できるものです。
私たちテラバースは、ブッダボットの開発で培った「思想・人格をAIで再現する技術」を応用し、経営者の理念を継承する社長ボットや、企業のナレッジを活用する対話AI・パーソナルAIの開発を手がけています。人の知恵や思想をAIで継承する取り組みにご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。
